悪質・危険な運転によって、周囲のドライバーを脅かし、重大な交通事故の発生にもつながるあおり運転は、2020年6月30日に施行された改正道路交通法にて厳格な取締りの対象となりました。
本記事では、あおり運転の罰則内容を解説するとともに、被害にあわないための回避方法や被害にあった際の対処法などを紹介します。
- 目次
1.あおり運転の定義は?
あおり運転とは、後方や左右から極端に車間距離を詰めて異常接近する、追い回す、前方を走っていながら突然急停止して車両の運転を妨げるなど、故意に特定の車両の運転を妨害する危険な行為のことをいいます。
また、理由のないパッシングや執拗にクラクションを鳴らす、ハイビームを使った運転の妨害、相手に罵声を浴びせるなど、相手を威嚇したり、嫌がらせしたりするなどの迷惑行為もあおり運転に該当します。
近年は、大きな社会問題として取り上げられることも多いあおり運転。一般道路はもちろん、高速道路でのあおり運転は特に危険であり、重傷事故や死亡事故も発生しています。
では実際に、あおり運転はどのような交通法規に違反するのでしょうか。道路交通法では、以下のような行為が「妨害運転罪」として処罰対象となっています。
- 対向車線からの接近や逆走(通行区分違反)
- 不要な急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)
- 車間距離を詰めて接近(車間距離不保持)
- 急な進路変更や蛇行運転(進路変更禁止違反)
- 左車線からの追い越しや無理な追い越し(追越し違反)
- 不必要な継続したハイビーム(減光等義務違反)
- 不必要な反復したクラクション(警音器使用制限違反)
- 急な加減速や幅寄せ(安全運転義務違反)
- 高速道路などの本線車道での低速走行(最低速度違反(高速自動車国道))
- 高速道路などにおける駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)
上記はあくまで一例であり、これら以外の行為においても、特に悪質と判断される場合には、直接的な車同士の接触や暴力行為にいたらなかったとしても、危険運転致死傷罪や暴行罪が成立するケースがあります。
2.道路交通法が改正され、あおり運転が厳罰化
あおり運転の社会問題化により、その防止策として、2020年6月30日に道路交通法が改正され、あおり運転に対する罰則が定められました。これにより、あおり運転は「妨害運転罪」として取締り対象に位置づけられ、罰則も厳格化されることとなりました。
厳罰化の背景
あおり運転を巡るトラブルは以前から問題視されており、厳罰化が強く望まれていました。その直接的な契機となったのは、2017年6月に起きたあおり運転を発端とした悲惨な死亡事故です。
神奈川県内の東名高速道路下り線において、執拗に追跡し、進路を塞ぐなどの妨害行為を繰り返したうえ、車を強引に停止させたことにより、被害者の車に後続のトラックが追突。停止させられた自動車に乗車していた一家4名を死傷させた事件の裁判では、あおり運転や車を強引に停止させる行為に対して、直接「危険運転致死傷罪」が適用できるか否かが争われました。一審・横浜地裁、二審・東京高裁のいずれも「危険運転致死傷罪」の成立を認めましたが、東京高裁は一審の訴訟手続きに違法な点があったとして横浜地裁に審理を差し戻します。2022年6月6日に差し戻し前の一審と同じ懲役18年の判決が加害者に言い渡されたものの、いまだに多くの問題を残しています。
また、その後の2019年にも、常磐自動車道でのあおり運転の末、運転手に暴行を加える事件が発生しました。これらの事件を契機の1つとして、ようやく2020年6月2日に、あおり運転に対する厳罰化などを規定した改正道路交通法が国会で可決・成立し、同年6月30日に施行されました。
改正後の変更点
道路交通法改正によって、妨害運転罪が創設され、あおり運転を行ったドライバーに対する罰則が強化されるようになりました。
実際に事故を起こさなかった場合でも、他車の交通を妨害する目的での急ブレーキや、執拗なクラクション、パッシングなど、あおり運転に該当する行為は取締りの対象になります。それだけでなく、他の車の通行を妨害する目的で、著しい危険を生じさせる行為をした場合は、飲酒運転と同等の罰則が科せられます。
また、「危険運転致死傷罪」の対象となる類型に、車の通行を妨害する目的で「走行中の車の前方で停止したり、走行中の車に著しく接近したりする」「高速道路や自動車専用道路で走行中の車を停止または徐行させる」の2点が追加されました。
3.あおり運転の具体的な例
急な進路変更
後続車や並走車の前で急に進路を変えることは非常に危険です。道路交通法第26条の2では、進路変更について「車両は、みだりにその進路を変更してはならない」と定められています。
車間距離を詰める
前方を走る車の後ろに車間距離を詰めて接近したり、ぴったりと速度を合わせて走行したりといった危険行為。適切な車間距離の保持は道路交通法第26条で規定されています。
威圧的な蛇行運転
後続車の通行を妨げる蛇行運転は、危険な運転であることはもちろん、受ける側に恐怖心や不安感を抱かせる行為としてあおり運転とみなされます。
突然の追い越し
追い越し禁止の道路での車の追い越しや、十分な車間距離が保てない状況での無理な追い越しもあおり運転とみなされる場合があります。
クラクションを執拗に鳴らす
クラクションは、標識などで定められている場所と危険防止などやむをえない場合にのみ認められています(道路交通法第54条)。不必要な反復したクラクションもあおり運転に該当します。
高速道路での低速走行
高速道路の最低速度は時速50kmですが、故意に時速50km以下で本線車道を低速走行し後続車に嫌がらせをする行為もあおり運転とみなされます。
4.あおり運転の罰則
あおり運転(妨害運転罪)に対する罰則は以下のように定められています。
交通の危険の恐れがあるあおり運転を行ったとして処罰された場合は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。違反点数25点が加算されるため運転免許は取り消しとなり、その後2年は免許を取得することができません。
また、高速道路上で相手車両を停車させるなど、著しい交通の危険を生じさせた場合は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。違反点数35点が加算され、運転免許取り消しのうえ、その後3年は免許を取得することができなくなります。
加えて、あおり運転により人身事故が起きた場合は「危険運転致死傷罪」が適用され、人を負傷させた場合は懲役15年以下、死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役に処されます。これら以外にも、暴行罪や傷害罪、脅迫罪などの罪に問われることもあります。
5.あおり運転されるのを回避するためにできること
どれだけ細心の注意を払って運転をしていても、不運ながらに危険な運転をする車に遭遇してしまうことはあると思います。そんなときに大事なのは、できるだけ自ら回避すること。あおり運転への対処方法としては、以下の点が挙げられます。
- 複数車線の道路では一番左側の車線を走る
- 車線変更する際は、車間距離を十分にとって行う
- 車間距離をとった運転を心がける
- 後ろの車が急いでいそうであれば道を譲る
片側2車線以上の道路ではどの車線を走ってよいか迷うこともあるかもしれません。基本的に一番右側の車線は追い越し車線になるため、一番右側を走行し続けることはルール違反です。走行中はこまめに後方を確認し、道を譲るようにすると、あおられるリスクを減らせます。
もちろん、あおり運転はしている側に原因がありますが、相手を刺激したり、イライラさせたりする運転や行動を避けることも大切です。周囲のドライバーを不快にさせず、自分があおり運転にあわないためにも、思いやりや譲り合いの気持ちを常に忘れず、心にも時間にも余裕をもった運転をすることが大切です。
日頃安全運転をしている人でも、焦りや疲れ、悩みごとなどが原因で感情的な運転をしてしまうこともあるかもしれません。しかし、あなたのそうした運転が、周囲の車のドライバーに威圧感を与えてしまう可能性があるのです。
あおり運転の加害者にも被害者にもならないよう、「追い越し車線を走り続けない(違反行為となります)」「追いつかれたら道を譲る」「車間距離を十分にとる」「急発進、急停車、急な割り込みなど<急>がつく運転はしない」といった基本的なルールを常に念頭においた運転を心がけましょう。
6.あおり運転に遭遇してしまったときの方法
車線の道路ではいつも通りの運転をし、路肩や空きスペースへ停車する
後続車両からあおられたからといって自分も速度を上げたり、後ろにばかり気を取られていると、ハンドル操作を誤ったり注意力が散漫になったりして、事故につながる恐れがあります。
一般道の場合はまずは安全運転に集中し、空きスペースなどを見つけたらそこに停車するなどしましょう。車から降りるよう恫喝してくる場合もあれば、気が済んで走り去ることもありますが、いったん走行するのをやめて路肩に停車をして相手の様子を確認しましょう。
ただし、高速道路を走行中の場合は、本線道路はもちろん路肩であっても非常に危険ですので、サービスエリアやパーキングエリアなど安全な場所まで移動してから停車しましょう。
車のドアをすべてロックして110番通報をする
あおり運転をしてきた相手に対しての苛立ちから、自ら対処しようとしたり相手に向かっていったりしてしまう人もいますが、そうした対処は絶対にせず、110番通報をして警察を呼びましょう。その際には、まず必ず車のドアをすべてロックして、車外から直接的な危害を加えられない状態を確保し、自分や同乗者の安全を確保してから通報してください。後々の物的証拠になりますので、乗っている車を蹴ったり傷つけたりしているところも撮影しておくと、より効果的な証拠となるでしょう。
7.あおり運転から自分を守るためにはドライブレコーダーがおすすめ
あおり運転をされたと警察に通報をしても、物的証拠がなければ証拠不十分となり、事件として取り扱うことが難しくなる場合があります。そんなときの状況証拠となるドライブレコーダーの設置は非常に効果的といえます。
昨今では、単にうさ晴らしであおり運転をするような悪質なケースも多く、意図的にあおることで事故を起こし、慰謝料や賠償金を請求してくることもあります。
そのような場合でも、ドライブレコーダーが設置してあれば、あおってきた一部始終が証拠として保存されるため、設置を検討するドライバーが近年急増しています。
購入される際は、前方だけでなく、後方の映像も記録できる前後2タイプカメラがおすすめです。後方専用のドライブレコーダーを設置すれば、後方から当て逃げや追突の被害にあった場合にも証拠を残せます。
8.監修コメント
あおり運転は、加害者の歪んだ正義感によって引き起こされることも珍しくありません。極々軽微な運転操作ミスであっても、加害者にとっては譲れない重大な問題となっている場合がありえます。並走されたときなどに謝るジェスチャーをみせるだけで、トラブルを回避できることもあります。
また、ドライブレコーダーの存在が相手に我に返るきっかけを与えてくれることも考えられます。そうした期待も込めて、私も愛車にドライブレコーダーを設置しています。
とても残念なことではありますが、話が通じない場面に遭遇する可能性はゼロではありません。相手が激昂しているような場合は、身の安全を確保したうえで、110番通報することを強く推奨します。