2018年12月より、タイヤの「チェーン規制」の制度がスタートし、一定の条件の下で規制区間でのチェーンの装着が義務化されました。これにより、異例な降雪があった際には、対象となる規制区間にてチェーンの装着が「必須」となります。
このチェーン規制の内容や行われる時期、区間等について詳しく解説していきます。
- 目次
1.「チェーン規制」とは?
チェーン規制とは、異例の降雪時に、対象区間でタイヤチャーンの装着を義務付ける規制のこと。通行止め時間を短くする目的で2018年より施行され、従来は通行止めとしていた区間でも、タイヤチェーンを装着していれば通行できるようになりました。
チェーン規制は、「大雪特別警報」や「大雪に対する緊急発表」が出されるような異例の降雪時に発令されます。チェーン規制が発令されると、対象となっている規制区間では雪用のタイヤチェーンの装着が「義務化」されます。チェーン規制が解除されるまでの間は、チェーンを装着していない車は通行できなくなり、チェーンを装着せずに走行した場合は、交通違反となります。
規制区間の手間には「チェーン着脱場」が用意されています。ドライバーはそこでチェーンを装着します。チェーン規制時には道路管理者が警察と協力し、規制区間の手前などでタイヤチェーンが装着されているかのチェックも行われます。
2.チェーン規制が義務化された背景
昔と比べて、「雪」が災害として大きな脅威となっています。年間の降雪量は横ばいで1980年代の観測データとさほど変わっていませんが、「24時間の降雪量が多い日」は増加傾向にあります。また2005~2016年の約10年の間に、「積雪の深さ」が観測史上最高を更新する地点が全国で3割以上にも及んでいるという気象庁のデータもあります。つまり雪が短時間で集中的に降り、一気に積もってしまう気象が多くなってきているのです。
さらに、大雪による「立ち往生」や「通行止め」が二次的な問題となっています。2017年の冬には、鳥取道及び周辺国道で約300台もの車両が立ち往生となり、また名古屋高速道路では全線で22時間以上通行止めになるトラブルが発生するなどしてニュースとなりました。立ち往生で渋滞が発生すると除雪車さえ入っていけないこともあり、長時間交通がストップしてしまう悪循環に陥りやすいのです。
これらのトラブルに関与しているのがタイヤであり、大雪時は冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ)を装着した車であっても、立ち往生が発生してしまっているのが現状です。
立ち往生などのトラブルが起きやすい急な勾配の区間において、チェーンの装着を義務付け、交通を円滑にする目的で考えられたのが「チェーン規制」です。また、チェーンを装着していれば通行できるようにすることで、従来よりも通行止めの時間を短くする狙いもチェーン規制には込められています。
3.チェーン規制の標識
- 出典
- 国土交通省
チェーン規制の対象となっている区間には、「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」の標識が道路上に設置されています。通常時はこの標識がある区間も問題なく走行できますが、チェーン規制が発令された際には、この標識がある区間ではチェーンの装着が必須となります。
4.スタッドレスタイヤも規制対象
注意したいのは、「スタッドレスタイヤ」も規制対象に含まれる点。チェーン規制中は、スタッドレスタイヤをつけていたとしても、その上からチェーンを装着しないと走行できません。もし、チェーンを装着していない場合は違反となります。
前述の通り、スタッドレスタイヤを装着した車であっても、大雪時に立ち往生が多数発生しています。スタッドレスタイヤを履いていても交通を妨げる原因になり得るため、規制中はルールを守りチェーンを装着して走る必要があります。
また、「4輪駆動車(4WD)」も規制対象に含まれます。「4輪駆動車(4WD)」は重量が大きいこともあり、下り坂では(ブレーキがきき始めてから、車が完全に停止するまでの距離)が2輪駆動車より長くなる傾向があります。とくに雪道の下り坂はブレーキが効きにくいため、2輪駆動車以上に制動距離が延びる4輪駆動車は、スタッドレスタイヤを履いていたとしても危険になることがあります。したがって4輪駆動車であっても、規制中はルールを守りチェーンを装着して走る必要があります。
5.チェーン規制に罰則はある?
チェーン規制時には、規制区間手前にチェーンのチェック箇所が設けられ、そこで検査員がチェーンを装着しているかを確認します。チェーンを装着していない場合は、規制区間の走行は禁止されており、これに違反した場合は通行禁止帯を走行したものとして道交法の定める罰則(3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金)が適用される可能性もあります。
チェーン規制発令時には検査員がチェーン装備をチェックすることになっていますので、検査員の指示に従い、しっかりとチェーンを装着するようにしましょう。
6.チェーン規制が実施される時期と確認方法
チェーン規制が実施される時期について、国土交通省側は「大雪特別警報や大雪に対する緊急発表が行われるような異例の降雪があるときに行います。」と述べています。そうした異例の大雪が予想される2〜3日前に、気象庁および国土交通省により「チェーン規制発令の可能性あり」との発表があります。
異例な降雪が予想される際には、運転前にテレビ・ラジオ・インターネット・道路上の電光掲示板などから、「大雪特別警報」や「大雪に対する緊急発表」に関する情報、チェーン規制に関する情報を確認しておきましょう。
なお、「大雪特別警報」は、数十年に一度の降雪量となるような大雪が予想される場合に気象庁から発表されるものです。いつ発令されるかわかりませんので、チェーン規制の対象区間を日常的に走行する方は、タイヤチャーンを常備しておくことをおすすめします。
7.チェーン規制が実施される区間
国土交通省によれば、チェーン規制の区間として選ばれるのは、主に次のような要素を満たす区間・道路とのことです。
- 急な上り坂や下り坂のある区間(峠道など)
- 過去に雪が原因で「立ち往生」や「通行止め」が発生した区間
- タイヤチェーンを着脱できる場所、通行止めが解除されるまで待機できる場所がある区間 など
チェーン規制の対象となった区間には「タイヤチェーンを取り付けていない車両通行止め」の標識が設置されます。そして異例の降雪がありチェーン規制が発令した際には、走行時のチェーンの装着が義務化されます。
以下が、2021年10月時点の全国のチェーン規制箇所一覧です。
一般国道
都道府県 | 路線番号 | 箇所名 | 区間 | 距離 |
---|---|---|---|---|
山形県 | 国道112号線 | 月山道路 | 西川町月山沢~鶴岡市田麦俣 | 15.2km |
山梨県・静岡県 | 国道138号線 | 山中湖・須走 | 山梨県山中湖村平野~静岡県小山町須走字御登口 | 8.2km |
新潟県 | 国道7号線 | 大須戸~上大鳥 | 村上市大須戸~村上市上大鳥 | 15.3km |
福井県 | 国道8号線 | 石川県境~坂井市 | あわら市熊坂~あわら市笹岡 | 3.2km |
広島県・島根県 | 国道54号線 | 赤名峠 | 広島県三次市布野町横谷~島根県飯南町上赤名 | 2.5km |
愛媛県 | 国道56号線 | 鳥坂峠 | 西予市宇和町~大洲市北只 | 7km |
高速道路
都道府県 | 路線番号 | 箇所名 | 区間 | 距離 |
---|---|---|---|---|
新潟県・長野県 | (E18)上信越自動車道(上信越道) | 信濃町IC~新井PA(上り線) | NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社) | 24.5km |
山梨県 | (E20)中央自動車道(中央道) | 須玉IC~長坂IC | NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社) | 8.7km |
長野県 | (E19)中央自動車道(中央道) | 飯田山本IC~園原IC | NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社) | 9.6km |
石川県・福井県 | (E8)北陸自動車道(北陸道) | 丸岡IC~加賀IC | NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社) | 17.8km |
福井県・滋賀県 | (E8)北陸自動車道(北陸道) | 木之本IC~今庄IC | NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社) | 44.7km |
岡山県・鳥取県 | (E73)米子自動車道(米子道) | 湯原IC~江府IC | NEXCO西日本(西日本高速道路株式会社) | 33.3km |
広島県・島根県 | (E74)浜田自動車道(浜田道) | 大朝IC~旭IC | NEXCO西日本(西日本高速道路株式会社) | 26.6km |

8.使用するチェーンの種類は?
使用するタイヤチェーンには特に細かな指定はありません。カー用品店やホームセンターなどで「タイヤチェーン」として市販されている製品であれば、どれであっても特に問題はないようです。ただし、薬剤を吹きかけるスプレータイプのタイヤチェーンは除外されます。
なお、国土交通省が参考に挙げているタイヤチェーンの種類は「金属チェーンタイプ」「ウレタン&ゴムタイプ」「布製カバータイプ」の3つ。それぞれ特徴があり、装着や収納のしやすさが異なりますので、ご自身が使いやすいものを選びましょう。
タイヤチェーンの種類
金属チェーンタイプ
タイヤチェーンの中でも最もオーソドックスなタイプ。雪道に強く、制動力や登坂能力もあります。走行時の振動があったり、金属製のため重かったりなどのデメリットもありますが、安価で手に入れやすく、コンパクトで収納がしやすいのがメリットです。
ウレタン&ゴムタイプ
ウレタンやゴムでできており、路面への衝撃が小さくなるため、振動や騒音が少ないのが特徴。金属チェーンに比べて軽く、装着しやすいという利点もあります。ただし、価格は比較的高価です。
布製カバータイプ
タイヤにすっぽりかぶせるだけなので、簡単に装着できるのがメリット。また、軽量で持ち運びやすく、走行音も静かです。しかし、耐久性が弱いため、長距離の走行には向いていません。
9.チェーン規制における注意点
最後に、チェーン規制において注意すべき点、覚えておくべき点をいくつか紹介します。
誤解したままチェーン規制時に規制区間を走行してしまうと、違反となることもありますので、細かなルールも十分に理解しておきましょう。
全てのタイヤではなく、駆動輪にチェーンを装着する
タイヤチェーンはすべてのタイヤに装着する必要はありません。基本的には駆動輪に装着する形となります。
- FF車(前輪駆動の車)の場合・・・チェーンは前輪に装着
- FR車(後輪駆動の車)の場合・・・チェーンは後輪に装着
- 4WD車の場合・・・チェーンは前輪または後輪に装着
チェーン規制時にドライバーがやるべきこと
実際に異例な降雪があった際には、お近くの道路でチェーン規制が行われる可能性もあります。その場合ドライバーどのような対応をすればよいのでしょう。順を追って解説していきます。
- まずは雪用のタイヤチェーンを普段から車内に常備しておきます(チェーン規制対象の区間がお近くにある方は特に)。
- 異例な降雪があった際には、テレビ・ラジオ・インターネット・道路上の電光掲示板などから、運転前にチェーン規制に関する情報を確認しておきます。
- チェーン規制が発令されていることが確認でき、かつ対象の規制区間を走行する場合は、以下の指定の場所でチェーンを装着します。
<一般道>・・・規制区間の手前に用意された「チェーン着脱場」などでチェーンの装着を行います。
<高速道路>・・・規制区間の手前のサービスエリア・パーキングエリアなど安全な場所でチェーンの装着を行います。 - 規制区間には、チェーン規制区間を示す標識が設置されています。道路上の標識もよくチェックしておきましょう。
※基本的には、規制区間手前で警察官や道路管理者によるタイヤチェーンが装着されているかのチェックも行われています。チェーンの装着していない車は通行できず、そこで引き返すことになります。
10.監修コメント
近年は冬に大量の降雪があることも珍しくなく、このような大雪の際に自動車が走行不能となって大渋滞となったり、多くの自動車が立ち往生してしまったりという光景もテレビ等でみたことがあるのではないでしょうか。本件のチェーン規制も昨今の気候現象を踏まえたものであると考えます。このような大雪時には路面の状況だけでなく、視界も悪くなるのが一般的です。
このような路面や視界が悪化した状況において無理な運転をして事故を起こせば、当然責任も重くなる可能性が高いといえますので、より安全に配慮した運転を心がけたいところです。